2012年4月22日日曜日

010 旧フセイン政権崩壊から一年



010 旧フセイン政権崩壊から一年

◆ Masacre en Madrid ヨーロッパにとっての9・11

 米軍による攻撃開始から一年が経過した3月20日もその前後も、依然として不安定な情勢が続いているイラク。またアメリカ東海岸の同時多発テロから一年半が経過した3月11日にはマドリードで、スペインの人々が 、"la tragedia del 11-M, nuestro 11-S. Una fecha que forma ya parte de nuestra historia.

ナイアガラの滝氷の橋
" (
 三日後の選挙で勝利した社会労働党は、イラクへの主権移譲とスペイン軍の駐留が期限を迎える6月30日までに、現地で国連が中心的な役割を果たさない場合、自国軍を引き上げると表明している。この姿勢を批判している点においてはブッシュ政権のメンバーだけでなくケリー大統領候補も同じだが、彼らはサパテロ新大統領が語る "my commitment to withdraw troops is prior to the tragic events of 11th of Ma rch" ( (3月11日の悲劇以前から撤退を公約していた)という事実を思い出さなければならない。
 スペイン国民は、危機下で露になった前首相の本性を目の当たりにした点を除けば、侵略的な戦争への加担を貫く政府の意向とそれに反対する野党の提案という、事件前後で変化することのなかった判断材料を元に票を投じたわけで、今回の選挙結果をテロリストの勝利と呼ぶことは間違っている。
 米国側は当初「あの恐怖を共有したことで、スペイン人も対テロ戦争への協力という方向に傾くだろう」と踏んでいたようだが、そもそもテロを実感するのが一番遅かったのはアメリカだった。過激派組織を国内に抱えているスペインはテロと長く戦ってきたし、周辺国との人の行き来は良く言えばスムーズである一方、管理しにくいと いう短所は無視できない。犯行グループが国境に阻まれることなく移動する一方、警察活動においては言語、官僚主義が障害となり満足に情報交換できないことから、ヨーロッパ統合の選択がプラスの方向に働くと考えられている。
 スペインによる世界遺産への登録数は群を抜いているが、それは宗教の衝突と文化の融合の地であり続けた証であり、アラブ世界、イスラム社会とは深い関わりを持ってきた。多様性に対する寛容と安全保障の両立がいかにデリケートかを身にしみて知っている国民たちは、アメリカの9・11への反応が単独行動的だと批判し続けている。また、ごく最近まで独裁政治を体験し、自由を市民が勝ち取った誇りが語られることの多い国だからこそ、イラクに対する武力行使は地域における諸問題の解決� �にならないと90%を越える人々が訴えた。
 通勤列車爆破後に旧政権が容疑者と断定したETAは、ここ数十年に渡り多くの命を奪ってきたが、最近は弱体化している上、標的を絞り事前に声明を発表する暗殺計画を実行することが多いため、一般人や渡航者が巻き込まれることは心配ない、などと言われるほど。ただ、アル・カーイダ系の組織が背後にいたのならば手口は異なり、今後、誰がどのようにして狙われる可能性があるのかという点ではまったく違ってくる。
 ところが、政府関係者は国民の安全を案ずるより先に、権力を手放すことを恐れて有権者を欺くかのように振る舞った。反政府デモを取り上げず、通常の番組をETAの恐怖を強調するドキュメンタリーに変更した国営放送TVEの決定が彷佛"?とさせるのは、フランコ 独裁政権時代。我が身を守るために人々が迅速な対応と正確な情報を切実に求めている時、任務を怠ったのだから、政権の座を追われるくらいでは済まない。
 事件への対応に加え、テロが発生した理由についても不満が爆発した。"Nobody forced Aznar to go to war; the entire country was against it. Nobody has been saying that the United States was responsible for this attack, but everybody holds the Spanish government responsible.
米国の人々の%
" ( (アスナールは誰かに戦争参加を強いられたわけではない。今回のテロ攻撃がアメリカのせいだという声は上がっていないが、スペイン政府が責任を取るべきだと皆感じている)という市民の声がメディアに取り上げられていた通り、『有志連合』に加わったことで自国を憎悪のターゲットに変えたアスナール政権を支持することはできないという気持ちが、高い投票率がもたらした政権交代に表れていた。
今や米軍に雇われているイラク市民も、身の安全を確保するために勤務先を伏せなければならないと報道されるほどで、大惨事と大混乱を引き起こした攻撃を成功と呼ぶことは難しく、アメリカに協力した人は嫌われ者となることが明らかになっている。スペインと同じく、国民の反対を押し切ってアメリカによる占領の枠組み� �で『派兵』し敵視されることとなった日本政府は、誘拐犯に説明されるまでその事実を認識していなかったのだろうか。

◆人質事件が問うもの


curacion ·デ·にきび

 政府への怒りを表明し、当然の処分を下したスペインの人々を「テロに屈した」と非難するのならば、同じく世論に反して政府がこの『戦争』に協力した日本でも、事態が悪化すれば悪化するほど現政権を責められなくなって泥沼にはまっていくしかない。そもそも撤退の条件を示さずに自衛隊が派遣されたことが危険であり、ミッションをうやむやにしたままでは何らかの事情があって撤退したとしても、脅しにのったような形になってしまうのではないだろうか。
「現地の復興に貢献しているのだから帰さない」と主張する政府関係者には、何を達成すれば任務に一区切り付いたとするのかという出口計画を事前に発表しなかった理由を聞きたい。期間を限定していれば、まだ仕事が残っており、なおかつ環境が活動に適して� �る場合には、契約を更新するような形で滞在を延長することも可能だったはずだ。
 実際は、現地で何が行われているのか全くわからない象徴的な派遣でしかなく、明らかに政治的な決定だった。ブッシュ大統領やラムズフェルド国防長官の「この戦争は一国主義的ではない」という言い訳を裏付けるものである限り、中東一帯を不安定化させた米国へのサポートであり続ける。
 邦人拘束をはじめとしたイラク情勢の暗い展開を伝えるニューヨーク・タイムズの記事は、米大将の言葉で締めくくられていた。" This has been a nation of intimidators," he said. "We only have to stop the culture of intimidation, and it will only be done with a fair and firm response by us." ( (脅迫者が牛耳ってきた国だ。我々に求められているのは威圧の習俗を断ち切ることであり、そのためには公平で強硬な姿勢で臨むしかない)。これまで"?の取り組みに誤算があったことを認めようともせず、暴力の悪循環を引き起こしてきた『掃討作戦』を激化させる戦略に、もはや期待できるものは何もないように思える。
 人々の生活を少しでも楽にするために、そして真実を伝えるために……使命感に忠実であったがために捕らえられた人質たち。自衛隊がこのような形で派遣されていなければ日本人が特定されて狙われることはなかったわけで、「テロはどこでも起こる」という理屈は通用しないはずだ。「危険を覚悟して勝手に行ったのだから」という他人事のような意見も耳にするが、日本国内では政府や世論を揺さぶる 事件の実行が困難なので、現地で活動する彼らが狙われたと考えた方が正しい。
 マドリードの悲劇以来、日本でも「テロ対策」が叫ばれているが、それは3・11がきっかけではなく、自衛隊派遣、いや、イラク攻撃支持の時点で覚悟していたはずで、反応が一年遅れている。それはともかく、市民が危険にさらされている以上、あらゆる方面で対策を万全にするだけでなく、官と民、国と各自治体などの連携を強めておくことは最低限必要だ。と同時に、混迷するイラクの情勢を安定させるため日本が果たすべき役割を捉え直すためには、開戦の時点に遡って対応のありかたを考え直すしかない。それは決して現実の問題から目を逸らすということを意味しないはずだ。

◆各国のソフトパワー


 民主党大統領候補のケリー氏は "the president had not done enough to build an international coalition, had failed to plan for what would happen after the combat ended, misled the American people about the presence of banned weapons and refused to make clear how expensive the war and its aftermath would be. From the beginning, Mr. Kerry said, 'this president didn't tell the truth about the war.'" (
 嘘や隠し事を避ける必要性はさておき、ここ数年の国際情勢の扱いにおいてはどのようなオプションがあったのだろうか。ジョセフ・ナイ教授は新作SOFT POWER: The Means to Success in World Politics で、広く使用されるようになった「ソフトパワー」を改めて詳しく定義づけている。
 ブッシュ政権によるイラクへのアプローチについては "'The real key is not how many enemy do I kill. The real key is how many allies do I grow. And that is a very important metric that they just don't get.'" (IX)(本当は、殺した敵の人数が肝心なのではない。鍵となるのは盟友を何人増やすことができるかという点だが、彼らはこの重要な原則を理解できない)という声を紹介した上で、こう解説する。
 "What is soft power? It is the ability to get what you want through attraction rather than coercion or payments. It arises from the attractiveness of a country's culture, political i"?deals, and policies. When our policies are seen as legitimate in the eyes of others, our soft power is enhanced." (X) (ソフトパワーとは何だろうか。それは、抑圧や懲罰を加えるのではなく、相手を引き付けることで望むものを手に入れる能力であり、文化や政治的理念、国家政策が持つ魅力から生まれる。方針の正当性が他者によって認められた時、ソフトパワーは高められる)。
「アメリカの場合、それは民主主義や人権、個人に与えられたチャンスという概念であり、移民や留学生の流入、映画やテレビ番組の輸出によって証明されている。書籍出版、音楽業界での売り上げにおいても二位につけている日本を大きく引き離しているし、ノーベル賞受賞者も多い。」
 当然、この力は米国だけの特権ではなく、ソフトパワーの面ではEUも秀でている。"The idea that war is now unthinkable among countries that fought bitterly for centuries, and that Europe has become an island of peace and prosperity creates a positive image in much of the world." (77) (ヨーロッパが平和と繁栄の安全地帯となり、何世紀も激しく戦ってきた国々の間で今や戦争がありえないという認識は、世界の大部分においては好意を喚起する)。
 そして "Japan has more potential soft power resources than any other Asian country. It is the first non-Western country that was able to fully modernize to the point of equality with the West in income and technology while showing that it is possible to maintain a unique culture.
" (非西洋国として近代化をいち早く果たした日本は、他のアジア諸国が及ばないソフトパワーの潜在能力を秘めている。独自の文化を保持しながらも収入と技術面で欧米に並ぶことが可能だと証明したのだから)。
「特許やネットサーバー、事業開発プログラムや大手企業の数と、ハイテク製品の輸出や平均寿命でトップクラスである日本のソフトパワーは、経済成長の減速によって弱まることはなかった。それどころか、ゲームや漫画、J-POPや電化製品、建築や服飾、グルメやアート……と文化的影響力は80年代よりも増している。ポップカルチャーだけでなく、文学や映画、伝統文化やクラシック音楽、禅の精神や格闘技など日本の守備範囲は広い。」 「ただ、周辺国の住民を完全に魅了する上では歴史への姿勢が障害となっている。また少子化という弱点を克服するための移民受け入れ、国際的共通語ではない日本語を補助する外国語での意思表示にも慣れなければならない。」
 "But given Japan's past record of twice reinventing itself-after the Meiji revolution in the nineteenth century and after World war II-plus the undiminished skills of Japan's people, the stability of its society, areas of technological leadership (for instance, mobile Internet applications), and manufacturing skills, it is not impossible." (87) (しかし、明治維新と第二次世界大戦を機に二度生まれ変わった実績と、日本人のスキル、社会の安定、モバイル型インターネット活用に代表されるような優れたテクノロジーを考慮すれば、決して不可能ではない)。

◆ソフトパワーの使い方


 「このように、軍事力に裏打ちされたhard powerに比べ、soft powerの行使方法は多種多様であり、中央政府の影響力外にもあって、効果が発揮される様子を気長に観察しなければならない一面を持つ。相手側の受け止め方に有効性が左右されるという特徴に不信感を募らせる人もいる。だが、世論調査が度々明らかにした国際社会におけるアメリカの印象悪化は、一時的な現象なのだろうか?」
 "It is true that the United States has recovered from unpopular policies in the past, but that was against the backdrop of the Cold War, in which other countries still feared the Soviet Union as the greater evil... It is not smart to discount soft power as just a question of image, public relations, and ephemeral popularity. As we argued earlier, it is a form of power'a means of obtaining desired outcomes." (129) (過去にも、広く支持されない政策から立ち直った経験があることは事実だが、それは冷戦という背景のもと、ソ連という強烈な悪役を他国が恐れていた頃だった。ソフトパワーを単なるイメージ戦略や、つかの間の人気を集めるためのPR活動の問題だと切り捨てるのは賢明ではない。これまで説明してきたように、望ましい成果を得るために有力なのだ)。
 政治的思想の差異を定める時、アメリカでは歴史上の大統領を引き合いに出すことが多い。「最近目立っているのは、ウッドロー・ウィルソンの理想主義をそのまま受け継ぎ国際協調を説く勢力から、ベトナム戦争以後に分離した新保守主義勢力。彼らはウィルソンが推した国際機関を、デモクラシーを広める上での障害と見なす。」
 "Ironically, however, the only way to achieve the type of transformation that the neoconservatives seek is by working with others and avoiding the backlash that arises when the United States appears on the world stage as an imperial power acting unilaterally. What is more, since democracy cannot be imposed by force and requires a considerable time to take root, the most likely way to obtain staying power from the American public is through developing international legitimacy and burden sharing with allies and institutions." (141)(しかし皮肉なことに、ネオコン派が熱望するような変革を実現するためには、国際舞台において単独行動的な帝国のように見られた場合の反発を回避するために、他者と協力するのが唯一の道だ。さらに、民主主義とは力で強制できない上、根付くまでに相当な時間を要することを考えれば、国内世論の支持を持続させるためには国際的な正当性を得て同盟国や国際機間と負担を共有するしかない)。
 また、アンドリュー・ジャクソン流の荒っぽいポピュリズムを好むラムズフェルド国防長官らは "They would prefer to punish the dictator and come home rather than engage in tedious nation building."(141) (いったん独裁者を懲らしめてしまえば、長ったらしい戦後再建のプロセスに手を貸す気がない)。この手法の無責任さもまた、実際に証明されてしまった。
 それではアメリカがソフトパワーを有効に行使できるような国へと戻るために、誰の精神が求められているのだろうか。ナイはこう述べる。「まず忍耐を取り戻すためには、長期的な国益や通商を重視したアレクサンダー・ハミルトンの現実主義が必要だ。」
 彼のリアリズムを補助するのは、今最も不足していると思われる、謙虚な物腰。トーマス・ジェファソンは "those who advocate the pursuit of democracy by being a shining beacon to others rather than (in John Quincy Adamユs words) 'going forth in search of dragons"? to destroy.
'" (139) (デモクラシーを追求する上では、アダムズ大統領の言葉を借りれば<化け物退治に出掛けていく>のではなく、周りにとって輝くかがり火のような指針を示す者)が成功するのだと語っていた。

Nye, Joseph S. Jr., SOFT POWER: The Means to Success in World Politics. Public Affairs, New York, 2004.


 



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